終点、池袋

フィクション交じりのノンフィクション

EPISODE-33 卒業試験

「もう大丈夫そうですね」

「何かあったらまた来て下さい」

 

久し振りの診察

そして結果 特に問題がなかった事から

この日が最後の診察となった。

 

最後の診察は手術から81日目だった。

 

別れ際に先生が絵を描きながら

改めて今回どういう手術をしたのか説明してくれた。

 

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ふむふむ なるほど。(理解してない)

 

思えばこの先生に出会わなければ

手術をすると言う選択をしていなかったかも知れない。

 

大げさかも知れないが自分にとっては

後の人生を

ポパイとして生きるか元ポパイとして生きるかを決めた

重要な出会いであったように思う。

 

何度かの診察等を経て

冗談を言い合えるような関係となっていたので

最後はお互い涙を流しながら抱き合うくらいの

別れになる事を想像していたが

先生の目は信じられないくらいパサパサに乾いていた。

 

先生ありがとう。

 

そして診察の後は

こちらも久し振りとなるリハビリに向かった。

 

一通り腕の可動域を確認した後に

椅子に座らされ両腕を水平に開くよう指示される。

 

「では…いきますよ…」

 

「ふんっ!」

 

!?

 

十分な説明もないまま

水平に上げた私の腕を

下げよう下げようと力を加えてくる理学療法士

 

「これは下げられないように抵抗しろって事ですか?」

 

「そ…そうです!ハァハァ!」

 

しょ…正気なのか?

腰を入れ 全体重を乗せ

理学療法士の額には脂汗が浮かび 指先は震えている。

 

こいつ…

紛れもなく本気で来ている!

 

必死に腕を下ろされないよう力を入れる私。

 

よく晴れた空の真下

湘南の片隅のリハビリステーション

拮抗する二人の中年男性。

 

その様はまるで 

片手悟飯vsセル かめはめ波状態だった。

 

 

膠着状態が続く中

頭の中ではこれまでのリハビリの日々が思い浮かぶ。

 

手術後

はじめて腕立てをして1回も出来なかったあの時。

 

激弱チューブも満足に伸ばす事が出来なかったあの時。

 

水泳オジサンにドヤ顔でマウントを取られたあの時。

 

 

「ハァハァ!」

 

力を入れ続ける理学療法士

 

 

なんと言う事だ…。

 

思い浮かべたリハビリの場面は全て自宅であり

リハビリメニューもほぼ自分で考えたものだった。

 

思えばこのリハビリステーションでは

手術後初期の頃に固くなった筋肉を

もみもみされたくらいの記憶しかない。

 

 

あ…あんまりお世話になってないッッ!

 

患者任せのリハビリの在り方に怒りが汲み上げてくる。

 


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うぉああああー!!!!!

 

肥大する私の筋肉!

 

 

「ギャフン」

 

手を離し退く理学療法士

 

電線に止まっていた鳥達が一斉に大空へと羽ばたき

リハビリステーションに静寂が訪れた。

 

 

「も…もう来なくても大丈夫そうですね…ハァハァ」

 

私は理学療法士との戦いに勝利し

病院でのリハビリもこの日で卒業となった。

 

ありがとう理学療法士。(社交辞令)

 

 

こうして私は上腕二頭筋長頭腱断裂における

手術療法に関わる全医療過程を終了した。

 

後は

まだ違和感の残る箇所のストレッチを地道に続けながら

運動の制限解除の日を待つのみとなった。

 

いよいよ

ライミング能力自体のリハビリがはじまるっ!